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ジョニーは戦場へ行った / ホラー映画レビュー

公開日: : おもうこと, ホラー映画

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■ホラーではない反戦映画

 

 

 

どうも最東です。

 

 

2016年度の夏はNASAが史上最高の暑さになる可能性があるとアナウンスした暑い夏でして、実際のところはどうなのかはわかりませんが本当に暑いです。

 

 

さて、今回ご紹介する映画はホラー映画ではありません。

 

 

所謂『別の意味で怖い映画』というものです。

 

 

当ブログでも様々な映画をご紹介しているので、ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、『怖い映画』というものはなにもホラーに限ったことではない……ということです。

 

 

それでは“ホラーではないのに怖い映画”とはなんでしょうか。

 

 

『ジョニーは戦場へ行った』

 

 

ドルトン・トランボが1939年に発表した小説を原作とした反戦映画で、公開はアメリカがまだベトナム戦争真っただ中だった1971年でした。

 

 

時期も時期だったので、本作の映画化に際し手を挙げる監督は少なかったといいます。

 

 

そのためもあるとは思いますが、本作に強烈なこだわりを持っていた原作者のトランボ自ら、監督・脚本を務めました。

 

 

 

■強いメッセージとテーマ

 

 

 

『ジョニーは戦場へ行った』という邦題ですが、原題は『ジョニーは銃をとった(Johnny Got His Gun)』といいます。

 

 

しかし、劇中に登場する主人公の名前は【ジョニー】ではなく、【ジョー】です。

 

 

鑑賞しているときは単純に、【ジョー】は本国で【ジョニー】の愛称なのかなーくらいに思っていたのですがそうではなく、主人公の名前とは別の意味があります。

 

 

実はタイトルである『Johnny Got His Gun』は、第一次世界大戦のときに志願兵を募集した宣伝文句だそうです。

 

 

また、『オヴァー・ゼア』という軍歌のなかで「ジョニーよ、銃をとれ(Johnny Get Your Gun)」という呼びかけがあり、本作のタイトルはそれに対する皮肉になっています。

 

 

そんな、戦争において強烈な反発と批判を込めたこの映画ですが、どんなあらすじなのでしょう。

 

 

 

■あらすじ

 

 

 

第一次世界大戦で徴兵で祖国を離れることになった青年ジョー。

 

 

恋人のカリーンに繰り返し出征を止められるも愛国心から自ら進んで戦場へと赴いた。

 

 

無事に生きて帰るとカリーンと約束し、出征も瞬く間に終わるであろうと思っていたジョーだったが、異国での戦闘で敵軍の砲撃を受けてしまう。

 

 

ジョーが目覚めたのは、ベッドの上。

 

 

体の自由が利かず、なにも聞こえずなにも見えない。話せない。

 

 

人の気配や、体を触られる感覚からそこが病院であることに気付いた。

 

 

自分の置かれている状況が理解できないまま、横たわっているジョーは次第に自らの体に起こった事態を知ることとなる。

 

 

砲撃を受けたジョーは、両手両足を根元から失くし、目も鼻も口も失ってしまっていたのだ。

 

 

喋られず、口もきけず、音も聞こえず、匂いも失くした彼が唯一持っているのは触感と体に感じる感覚。

 

 

ジョーを収容した病院の医師たちは、彼に意識などなくただの『生きる屍』だととらえ、ただただ延命処置のみを維持するのみだった……。

 

 

しかしそんなジョーを【物】としか見ていない医師や軍上層部とは逆に、彼を“ひとりの人間”として見る看護婦の女性はあるきっかけとともにジョーに意識があることを知り、それがさらなる悲劇の引き金となるのであった。

 

 

 

 

 

■トラウマ・鬱映画

 

 

 

時に強すぎるメッセージ性は人に恐怖や不安を与えることがあります。

 

 

いわゆる、トラウマというやつですね。

 

 

この映画も間違いなくその部類にあたるでしょう。

 

 

原作小説は何度も絶版と復刊を繰り返し、原作者のトランボもまた1947年の共産党狩り(赤狩り)で逮捕・実刑を受け映画界から追放された……といういわくもあります。

 

 

この映画では、基本的にジョーの一人称の語りで進められていきます。

 

 

意識がないと思われているけれど、実はちゃんと意識のあるジョーは誰にもそれに気づかれず、訴えることもできないためただただひたすらに妄想と回想に耽る時を過ごしています。

 

 

1971年の映画なので、時代はカラーが主流なのにも関わらず、この映画は半分が白黒で描かれています。

 

 

どういうことかというと、ジョーが妄想や回想に耽っているときの映像はカラーで描かれ、現実で手足を失い横たわっている病院での描写は白黒なのです。

 

 

現実に起こっていることは色を失い、過去や妄想などの頭の中で起こっていることは鮮やかに色彩を帯びる……。

 

 

このギミックに気付いた途端に身震いしました。

 

 

救いがあるか救いがないかでこの映画を語るのならば、どう考えても全くの救いのない映画です。

 

 

とあるキッカケで、彼に意識があることを知る周囲の人間はあろうことかこれまでよりもさらに彼の存在を隠蔽しようとします。

 

 

ただの生きる肉塊で意識もないと思われていた彼は、いわば名誉の戦士の扱いである意味神格化していたといってもいいでしょう。

 

 

ですが意識があり、ジョー自身が「殺してくれ」と訴えた途端、軍関係者たちは【神】から彼を【人間】だと認めざるを得なくなりました。

 

 

自分たちが起こした戦争で、一人の若者が手足や感覚を失ったこと。

 

 

そしてその若者自身が死を望んでいることが、軍の人間たちからしてみると実に『都合の悪いこと』だったのです。

 

 

そうしてジョーは再び小さく狭い部屋に閉じ込められ、外に出ることもできずにただ生きてゆくのです。

 

 

ただひたすらに「助けて」と「殺して」を繰り返し。

 

 

ジョーにとって「助けて」と「殺して」は同じ意味なのです。

 

 

 

■まとめ

 

 

 

この映画に出会ったのは福澤徹三氏の著書『怖い話』の中で、氏が『怖い映画』として紹介していたのがキッカケでした。

 

 

その後、レンタルDVD店で探したのですが私の住まう近隣店舗にはなかなか置いておらず、たまたまふらっと立ち寄った店で見つけました。

 

 

それでようやく見たのですが、思っていた通りに重く、思っていた以上に救いのない映画でした。

 

 

それはつまり、【戦争とは救いのないもの】ということを痛烈にメッセージとして込めており、トランボ自身の「それでもお前たちは戦争を続けるのか」という物言わぬ声にも聞こえてくるようです。

 

 

この映画は、四肢を失くし顔面の機能もほとんど失くした青年が主人公だというのに、直接的な描写が一切ありません。

 

 

いわゆる【グロ描写】というものはゼロなのです。

 

 

ですが間接的な所作であったり、会話の中であったりと彼に起こったことは誰が観ても分かるように作ってあるぶん、想像力を駆り立てられます。

 

 

つまり、ジョー自身が様々な想像や妄想を膨らませたように、観ている私たちもまた【ジョーの身に起こったこと】を想像して毛穴を広げるのです。

 

 

体の自由も、訴えることもできないジョーですが、彼の回想や妄想にはコミカルで楽しいことも時折登場し、必ずしも四六時中悲観的ではないということが分かります。

 

 

その点では、『潜水服は蝶の夢を見る』と似た点が多分にあるのではないでしょうか。

 

 

今作は、よく『キャタピラー』『芋虫』などと並べられることが多いですが、登場人物の少なさや、分かりやすい残酷描写、異常心理や性癖などを排除している分、シンプルに心に来ました。

 

 

『怖い映画』として太鼓判を押せる半面、『忘れられない映画』としてもあなたの心に残ることは間違いないのではないでしょうか。

 

 

 

 

★★★★★

 

 

 

 

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